ドクター本多の相談室

院長コラム

NO.12 噛む

皆様は「噛めよ 噛めよ よく噛めよ 噛めば身体が強くなる」という格言をご存知でしょうか?よく噛んで食べると健康全般によく、病気になりにくく、丈夫で長生きできることを先人たちはわかっていました。長い食の歴史の中で、古代人は自生する植物や動物の肉などを生のままで食べていました。このような食べ物はかなり硬いものが多く、ヒトはよく噛んで食べざるを得なかったのです。中世には農業や漁業が盛んになり、さらに近代になるとやや加工された食品も登場しましたが、人々はよく噛んで食べていました。よく噛む習慣が失われたのは、二十世紀の中ごろからです。食が商業化され、大量生産・大量流通の過程でやわらかく加工された食品が高級品で美味しいと思うようになりました。また、高度経済成長は「家族」の崩壊を招き、家長を取り囲んで皆でゆっくりと食事をすることも少なくなり、手軽で早く食べられる「ファーストフード」が増え、多くの人が噛まなく、そして噛めなくなってしまいました。現代人の食事時の咀嚼回数は、古代・邪馬台国の女王「卑弥呼」の時代に比べると約1/7と言われています。この頃の遺跡から出土するヒトのアゴの骨はどれも非常にしっかりとして固く、虫歯や歯周病はほとんど見当たりません。そして上下の歯の噛み合わさる面(咬合面)は、つるつるにすり減っていて、とてもよく噛んだ痕がはっきりと見てとれます。現代人の骨と卑弥呼の時代の人の骨をぶつけ合ったら現代人の骨のほうが簡単に折れてしまうでしょう。
噛むことは、単に食べ物を細かくして飲み込みやすくするためでなく、身体にとってとてもすばらしい効果があります。その効果を「卑弥呼」に掛けてわかりやすく表現したのが「ひみこのはがいーぜ」です。  

『ひ』肥満の防止;よく噛むと脳の満腹中枢に刺激が伝わり、早く満腹感を感じ、これ以上食べ物を取ることを中止させます。逆に噛まないで食べると、満腹中枢が刺激を受けないので満腹感を感じる前に多量の食べ物を食べてしまい、肥満の原因になります。

『み』味覚の発達;よく噛んで食べると、食べ物が唾液とよく混ざり合い、分解され、その食べ物の持っている色々な味がわかるようになります。

『こ』言葉の発達;よく噛むことで口の周りの筋肉がよく発達し、言葉をはっきりとしゃべれるようになります。

『の』脳の活性化;噛む運動の刺激がアゴを動かす関節や筋肉に情報を送り、大脳皮質を刺激し、活動を活発にします。ですから車を運転中にガムなどを噛んでいると眠くならないのです。また、口の周りの筋肉がよく動くことによって、脳をめぐってきた古い血液が早く心臓に送り返され、すぐに新しい血液が脳に上がっていくため、脳細胞は常に十分な酸素をもらえ、ボケの防止にもなります。

『は』歯の病気の予防;よく噛まないで食べると唾液があまり分泌されてきません。すると、歯についた食べ残しを洗い流すことが出来なくなるため、歯垢や歯石の沈着を促し、虫歯・歯周病の原因を作ってしまいます。また、小さい時からよく噛む習慣がないと、アゴの骨が発達しないので、顎関節症や歯並びが悪くなったりします。

『が』ガンの予防;唾液の中にはベルオキシダーゼという酵素が含まれています。これが食べ物の中に含まれる発ガン物質の発ガン作用を消してしまうことを同志社大学名誉教授・西岡一先生が今から25年も前に発見しています。先生は、一口30回噛めばガンにならないという「一口30回の会」も設立しました。今や2人に1人がガンで亡くなる時代です。よく噛み、唾液をたくさん出して、ガンになりにくい体質をつくりましょう。

『い』胃腸快調;噛む運動の刺激は脳に伝えられ、これが迷走神経を経て胃に伝えられ、胃に送られる食物の量を十分に消化できるだけの胃液の分泌を指令します。早食いであまり噛まないで食べると、脳に十分な情報が伝わらず、胃液分泌の準備が出来ないので、消化不良を起こし、胃や腸に負担を掛けることになります。

『ぜ』全力投球;よく噛むことで全身の体力も向上するので、仕事や勉強に全力投球することが出来ます。

以上のことから、噛むことが唾液の分泌を促したり、筋肉や脳に刺激を与えたり、全身の様々な機能を活性化させる重要な役割を担っていること等がお分かりになったと思います。
ここで注意していただきたいのは、よく噛むためには硬い食品を食べると良いと思われがちであることです。 どんなに噛むことが要求される食品でも、食事時間を急いで、よく噛まずに飲み込んだり、よく噛む習慣のついていない人(特に子ども)は、噛み砕けずに丸呑みしてしまったり、アゴの関節を痛めたりしてかえって逆効果になってしまいます。「よく噛む=硬い食べ物」ではなく、柔らかい食べ物でもゆっくり時間をかけてよく噛んで食べることが大切です。

12回にわたり「歯と健康」と題してお話させていただきました。お口を通じて皆様が健康で豊かな毎日を過ごされますよう心よりお祈り申し上げます。ご購読、ありがとうございました。

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